三色扁壺
(さんしきへんこ) Flat jar, splashed three-colored glaze河井寬次郎
(かわい かんじろう) Kawai KanjiroH 22.0cm W 22.0cm D 19.0cm
河井寬次郎の仕事は、初期(1913~25年)の写しの時代、中期(1926~45年)の民藝運動の中心的担い手として活動した時代、そして「不定形の時代」「造形の時代」と称される後期の奔放な自己表現の時代(1946~66年)とに大きく分けられる。特に晩年の寬次郎は「全てのものが自分の表現」「形が形を作る有り難さ」という自身の言葉通り、狭義の実用性や装飾性を超越し、創造への自由意志を貫いて特異な形象を生み出している。
本作品は晩年の代表的技法三色打薬による扁壺である。三つの口を有し、造形的には極めて稀な一作。成形は型づくりでまず通常の二口の器形を型で作り、更に三つ目の口を付けた。最後に口の部分の三つの仕切を作っている。
三色打薬は、当時の寬次郎が後継者の博次に陶芸の手ほどきをするうちに発想したとされる手法である。たっぷりと釉薬をふくませた太筆を勢いよく振り下ろして黒・緑・赤の三色を施釉した。この手法において特に寬次郎は粗土の風合いを好んでいる。三色の鮮やかな色味と即興性が三口の形と呼応し、素地の風合いとバランスよく融合している様は絶妙である。
本作品は、個人作家としての河井寬次郎が用即美の観念から自己を解放し、奔放に個性を発現させたすぐれた一作である。