バベルガエル
(ばべるがえる) Babel Frog天野裕夫
(あまの ひろお) Amano HirooH 50.0cm W 75.0cm D 75.0cm
瑞浪市大湫町出身の天野裕夫は、多摩美術大学で彫刻を学び、以来機械や都市、建築物などの人工物と生物とがダイナミックに交わる具象的でいて幻想的な独特の世界を表現してきた。たとえば生き物の背に都市が広がり、極小の象が立ち並ぶような造形は、見る者のスケールの感覚を揺るがす、豊かで壮大な物語世界を提示している。このいわば小世界・小宇宙的な世界観は、生まれ故郷である大湫の、山の上の窪地のような地形が原風景となっているという。扱う素材は主に陶やブロンズ、石や木などであるが、その創造の発端は子どもの頃の粘土遊びであったといい、現在も作品のイメージは手を直接使って考えることのできる粘土造形によって作り上げることが多い。
天野は長らく関東を拠点に活動していたが、より制作に集中できる環境を求めて2018年に故郷の瑞浪市大湫町に創作拠点を移した。これをきっかけに地元の窯業関係者との交流が始まり、釉薬や焼成について助言を受けながら新たな技法・表現にも挑戦している。本作はこの交流の成果が表れた作品の一つである。バベルの塔を背負ったカエルは、空を飛んでいるのか水面を泳いでいるのか、それ自体が動く小さな町のようだ。ぐっと伸ばされた手足や漲る力を感じさせる体部の張りは、作家の作品に特徴的なものである。一方でブロンズ調の釉薬は、かねてより求めていた色味と質感を釉薬の専門家との相談のもと新たに完成させたもので、一部はサンドブラストをかけることでさらにマットな質感を表現している。また、色ガラスは釉薬的に用いられ、町のなかを流れる水流のごとくこの小さな世界にさらなる奥行きを与えている。揺るぎない世界観を保ちながら、新たな展開を示した作例といえる。